源泉所得税の納税義務

源泉所得税は、源泉所得税を徴収しなくてはならないと所得税法に限定列挙された項目について、支払者が支払い額から源泉所得税額を天引きして納税しなければなりません。源泉所得税は支払相手先の所得税の前払いという性質となり、支払い者にとっても非常に繊細に取り扱わなければならないですが、その支払について源泉の対象になるものなのかどうかの判定や源泉徴収を失念した場合にどのような取扱いになるのかについて不安を抱える方も多いです。

【給与等】
イ 給与
ロ 賞与
ハ 退職金
ニ 利子配当・年金

【報酬・料金等の支払を受ける者が個人の場合の源泉徴収の対象となる範囲】
イ 原稿料や講演料等。ただし、懸賞応募作品の入選者などへの支払については、一人に対して1回に支払う金額が5万円以下であれば、源泉徴収をしなくてもよいことになっています。
ロ 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
ハ 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
ニ プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
ホ 芸能人や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
ヘ ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
ト プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
チ 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

源泉所得税は、支払者における源泉徴収義務において、徴収して納付することが義務付けられていますが、納期限までにその納付を行わなかった場合には、税務署から「納税の告知」が行われます。「納税の告知」までに納税が行われなかった場合には、督促状の送付による督促が行われ、その後一定期間が経過しても納付が完了しない場合には、差し押さえ等の滞納処分が行われます。

この「納税の告知」は、申告によって納税義務が確定する申告所得税や法人税等の申告納税方式による税目には行われず、源泉徴収方式の国税の他には、賦課課税方式による国税・登録免許税及び自動車重量税等の税目で行われています。

「納税納税の告知」は、税務署長が納税者(源泉所得税については源泉徴収義務者)に納税告知書を送付されます。当該告知には、税額・期限・納付先・年度・是目等の納付するため必要な項目の記載がされています。

「納税の告知」を送付された源泉徴収義務者は、異議申し立て・審査請求・抗告訴訟を行うことができるとされており、受給者は、その「納税の告知」と別個に源泉徴収義務の可否・範囲を争うことができるものと考えられています。税務署長が「納税の告知」を行う場合には、源泉徴収を要する報酬・料金の支払い内容・徴収した所得税等について、税務調査又は照会等により把握し、把握した内容に基いて行われます。

源泉所得税の不納付加算税

源泉所得税の不納付加算税は、源泉徴収により納付すべき税額を定められた納期限までに納付しない場合に課せられるペナルティで、延滞税等と異なり、1日でも納期に遅れますと一律の税率(10パ-セント又は5パ-セント)で課せられます。

従業員の給与の金額が大きかったり、源泉徴収の対象となる報酬等が大きい会社や事業主にとっては、納付すべき金額に一律10パ-セント又は5パ-セントを乗じてかされる不納付加算税は、大きな金額となるうえ、ペナルティの正確から会社や事業の経費とはなりせんので、その影響は大きいです。源泉徴収義務者に該当する場合には、その徴収した源泉所得税は一時的に預かっている資金という認識を持って、納期限に遅れることのないように十二分に気をつける必要があります。特に半年に一度納付すれば良いという納期の特例をとってる会社は、毎月の事務とは異なってきますので失念しやすい項目なので、注意しましょう。

不納付加算税の軽減

納税の告知を受ける前に法定納期限後に納付した場合には、原則の納付すべき税額を計算するうえで適用される10パ-セントの税率に代えて、5パ-セントの税率が適用されます。「納税の告知を予見しないで納付した場合」とは、源泉徴収義務者に対して、実地税務調査や税務署からのお尋ね等の具体的な税務署からの指摘を受ける前に、自主的に源泉所得税を納税したときであり、税務調査があることを知ってから納付した源泉所得税の期限後納付については、「納税の告知を予見しないで」とは考え難いです。この場合は、通常の10パ-セントの不納付加算税の税率が付加される可能性が高く、仮に、5パ-セントであると納税者側が主張する場合には「納税の告知を予見しないで」納付したということについて、第三者へ説得力のある証拠をもって説明しなければなりません。

不納付加算税の不徴収・不適用

不納付加算税は、正当な理由がある場合には徴収されませんが、正当な理由を納税者側で立証する必要があると過去の裁判例で判決を受けています(札幌地裁S50.6.24/東京高裁H11.5.31)。

ただし、一定の場合には不納付加算税が徴収されないという規定があります(不納付加算税の不適用の記事はこちら)。

源泉所得税の延滞税

源泉所得税の納期限内に納付を完了できなかった場合には、期限内納付した納税者との公平性を図るため、不納付加算税に加えて利息的な性格をもつ「延滞税」が課されます。

源泉所得税の延滞税は、源泉徴収による国税をその法定納期限までに完了しない場合に課され、その金額は、その時の金利情勢を勘案したうえで、高めの金利水準に定められています。よって、預かっている源泉所得税を事業資金に投入して資金繰りをしていますと、逆に高くつくことになります。

【源泉所得税の法定納期限】

源泉徴収した所得税及び復興特別所得税は、原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納めなければなりません。しかし、給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者は、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を、半年分まとめて納めることができる特例があります。これを納期の特例といいます。この特例の対象となるのは、給与や退職金から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税と、税理士、弁護士、司法書士などの一定の報酬から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税に限られています。この特例を受けていると、その年の1月から6月までに源泉徴収した所得税及び復興特別所得税は7月10日、7月から12月までに源泉徴収した所得税及び復興特別所得税は翌年1月20日が、それぞれ納付期限になります。

 

【源泉所得税の延滞税の利率】

法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて次の割合により延滞税が課されます。
納期限の翌日から2月を経過する日まで、原則として年「7.3%」。ただし、平成12年1月1日から平成25年12月31日までの期間は、「前年の11月30日において日本銀行が定める基準割引率+4%」の割合となります。また、平成26年1月1日以後の期間は、年「7.3%」と「特例基準割合+1%」のいずれか低い割合となります。

納期限の翌日から2月を経過した日以後、原則として年「14.6%」。ただし、平成26年1月1日以後の期間は、年「14.6%」と「特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合となります。

源泉徴収漏れがあった場合の事務処理

税務署等からの指摘があった場合や自身で源泉徴収漏れがあったことに気づき、源泉所得税を納付することになった場合の手続きの進め方は、①源泉所得税を支払い先から返金してもらうか②自身で負担するかのいずれかの手続きが必要になります。

支払先から徴収する場合

ⅰ支払先に連絡し、源泉徴収を失念していた旨と源泉徴収失念していた所得税額を伝え、返金を依頼する。
ⅱ返金と引き換えに支払先へ交付する支払調書を作成する
ⅲ返金と引き換えに支払調書を作成する

自身で負担する場合

諸事情で徴収すべきであった所得税を支払い者が負担することとする場合には、支払い済の報酬等の金額を源泉所得税等が徴収済の手取金額として逆算して源泉所得税等込の総支払額を計算し、算出税額を税務署に納付することとなります。この場合の負担額については、源泉徴収対象者の前払の税金となり、事業者の経費として費用参入できないことに留意ください。

外注費か給与の判定

同じひとに支払うものであっても、外注費扱いなのか給与扱いなのかで、徴収する源泉所得税の金額に大きな差異があります。外注と給与の判定はグレ-な部分が多いので、どちらの取扱いにするのかその支払い先との関係性も含めて充分に検討したうえで経理処理する必要があります。外注と処理した場合で支払い先が個人であるときには、報酬の源泉所得税の取り扱いとなる可能性が高いです。