監修者:麻布十番クリニック 大森真帆先生

健康診断最前線

健康診断とは労働安全衛生法の定めにより行われる健康診断。毎年受診する健康診断ですが、特に異常が発見されない限り、あまり診断結果に気を留めないこともあるかもしれません。しかし、正しい理解の下に健診を受ければ、病気の予防につなげることができます。

健康診断は体の状況を知る貴重な機会

健康診断は、一年間の生活習慣の「チェックテスト」とも言うべきものです。その結果を基に、自分の生活習慣を見直したり、不調に陥っている体の部分を見つけて早期治療に役立てたりすることが、検診の目的です。また、健診の内容も、何らかの異常を見つけるために「ひっかかりやすく」しています。多忙な現代人は、何か異常を感じても、市販薬を服用する程度でやりすごしてしまいがちです。改まった機会がない限り、強い痛みを伴う症状以外は「まあ大丈夫だろう」と軽く考えてしまうことが多いのではないでしょうか。そうした方にとって、一年に一度の健康診断は、自分の体と向き合うためのきっかなのです。ですから、総合評価の結果を見るだけのでは、健康診断を生活に活かしているは言えません。一つでも検査項目に「A」以外の判定が出たら、掛かりつけ医(できれば内科医が好ましい)の指導の下、生活習慣の見直しをしましょう。そうすることで、初めて健康診断を充分に活用できたことになります。

健康診断の精度は、人間ドックより低い?

巷では人間ドックに比べると健康診断は精度が低いなどと言われますが、そもそも健康診断と人間ドックは厳密に区別されるものではありません。それぞれの医療機関の判断で名称をつけているだけということを認識しておきましょう。一般的に、人間ドックの方が検査項目が多く設定されているため、より広く体をチェックできるとは言えるでしょう。敢えて両者に差をつけるとすれば、健康診断は「○○のリスクがある」「○○の疑いがある」という自分の体を知るためのもの。人間ドックはたくさんの検査によって、具体的に病気を見つけるためのものと言えそうです。一般的な健康診断は、あくまでもきっかけなのです。きっかけ作りの検査であり、その後の医師と相談や、生活習慣の見直しを行うためのものなのです。

だからといって、健康診断を受ける意味がないわけではありません。判定を受けて、改めて詳細な検査を受けた結果、病気の早期発見につながることはよくあります。逆に、「人間ドック」を受診し、そこで見つかった異常に対して何もリアクションをしなかったとしたら、受診した意昧はなかったことになります。健康診断も人間ドックも、大切なのはその後の行動なのです。

最近の検査傾向

年々進化する検査法ですが、基本的には低リスクで精度が高い「多くの人がひっかかりやすい」方法が求められています。

ここでいうリスクとは、体への負担のことです。放射線を浴びる必要があるX線検査や、食道や胃を傷つける可能性がある内視鏡(胃カメラ)検査、異物を飲む必要があるバリウム検査などはリスクが高い(負担が大きい)と考えられています。一方、一般的な検査に使う程度の採血は体への負担が低いとされるため、血液から検査する方法が増えています。

<血液検査でわかる病気の例>

ABC検査

血液検査によってピロリ菌感染の有無や胃粘膜の状態を調べ、胃がんのリスクを診断する検査。バリウムによる胃部検査よりも負担が小さい。

マイクロアレイ血液検査

血液から遺伝物質を抽出して解析することで、胃がん・大腸がん・すい臓がん・胆道がんの有無を調べることができる。50cc程度の血液で、4つのがんに対する反応が得られる。ピロリ菌感染の有無や胃粘膜の状態を調べ胃がんのリスクを診断する検査。

LOX-index

今後十年間の脳梗塞・心筋梗塞の発症リスクを予測する検査。血液中のコレステロールを分析し、血中のコレステロール(酸化した悪玉コレステローlレ)の数と、LOX-1と呼ばれる血管中のトラップの数在調べることで数値を算出する。数値と脳梗塞・心筋梗塞の発症率には高い相関関係が見られる。

アミノインデックス

血液中のアミノ酸濃度を測定し、現在の健康状態や病気の可能性を調べる検査。健康な人の血中アミノ酸濃度は一定だが、病気にかかるとこの濃度バランスが変化することに着目して開発された。これを利用したAICS (アミノインデックスがんリスクスクリーニング)は、一回の採血で複数の種類のがんのリスクを同時に検査するととができ、早期のがんにも対応している。

最新の検査例

血液検査の他、MRI検査やPET検査も受診できる機関が増えています。

MRI検査とは、強力な磁石でできた筒の中に入り、その磁気の力によって臓器や血管を撮影する検査です。放射線を浴びるX線検査より安全度が高いとされ、乳腺(乳がん)や子宮・前立腺(生殖器のがん)など、部位によってはかなりの精度で検査することができます。ただし、オプション検査になることが多く、受けるには自費負担となる検査です。

もう一つのPET検査は、がん細胞がブドウ糖を大量に取り込むという性質を利用した検査法です。ブドウ糖に近い成分を点滴で人体に投与することで、全身の細胞の中からがん細胞だけに目印をつけることができます。専用装置で撮影すると小さながん細胞でも見つけることができるため、一定の大きさにならないと発見が難しかったこれまでの検査より、精度の高い検査法として注目されています。

ただし、一部の疾患や他に検査方法がない場合を除いて保険が適用されないため、健康診断で受診すると高額の負担が生じがちです。

最後に、健康診断に関して寄せられる代表的な疑問について。数値に基づく検査判定は、最終的には・生活習慣病予防にそれぞれの医師の判断に任されるため、医師によって判定の判断に多少のバラつきがあります。その上で、ボ-ダ-ライン上の数値の場合は、「自分の体と向き合うきっかけ作り」という健康診断の意義から、再検査判定にするケースが多くあります。

しかし、体調によって微妙に数値は変わるため、検査時はボーダーライン上にあった数値が、再検査時には問題のない範囲に収まっていることがあるのです。「再検査の結果問題なし」の判定が繰り返された結果、要再検査の判定を無視するようになった方もいるかもしれません。しかし、ボーダーライン上の数値が繰り返し出ること自体、生活習慣の問題を示しているとも言えます。結果を無視せず掛かりつけ医などと相談し、習慣の改善に努めてください。

気をつけるべきマーカーは?

厚生労働省が“ 四大疾患” に指定している「がん・脳血管疾患・心疾患・糖尿病」に関するマーカーには、注意を払ってください。

がんはがん検査や腫傷マーカー検査、血管疾患はコレステロール値(血液検査)、心疾患は血圧や胸部レントゲン写真や心電図の結果、糖原病は血糖値(血液検査)で知ることができます。

自分で判断がつかない場合は、掛かりつけ医に検査結果を見せて相談してください。

健康診断や人間ドックでの「お勧めオプション」は?

糖尿病やがんなどの病気は、遺伝的な影響力があることが知られています。検診でオプション検査を選べる場合として、病気になる手前で踏みとどまるには、自分の病歴や親族(両親や祖父母な身近な人が経験した病気があれば、その病気)の兆候を検査することで、自分の健康維持に活かすことができます。

冒頭でも述べましたが、健康診断は、一年間の生活習慣の「チェックテスト」のようなもの。大切なのは、判定そのものよりその後の対処です。年に一度、自分の健康と向き合う機会チャンスとして、健康診断を活用してください。