個人の事業が順調に伸びて法人成りをしたものの法人は原則加入とされている社会保険料の負担や法人維持コストの増加によって、会社を清算し個人事業へ戻した方が長期的な観点から良いケ-スがあります。

ただし、会社を解散するかどうかは、今後の経営計画や事業の収益性見込みを検討した上で決定しなくてはなりません。目先の社会保険料や消費税の免税についてのみで判断しますと結果的にマイナスとなることもあるので充分に考慮する必要があります。

個人成りのメリット

1.法人成り時と同様に、2年間、消費税が免税される
(一定規模の場合には初年度から課税されます)
2.原則、常時使用の従業員が5人未満の場合には社会保険が任意となる

※平成25年1月1日以後に開始する年又は事業年度については、その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても特定期間(※)における課税売上高が1,000万円を超えた場合、当課税期間から課税事業者となります。なお、特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額により判定することもできます。
※特定期間とは、個人事業者の場合は、その年の前年の1月1日から6月30日までの期間をいいます。

個人成り時の選択と概要

個人事業主として事業を開始するにあたり、会社を消滅させる「解散・清算」、会社の活動を停止させる「休眠」の二通りの選択をしなければなりません。解散は登記が必要なので登記費用を要します。

一方、休眠はほとんど費用がかかりませんが、休眠後も決算申告や役員の重任等といった登記が必要になり、休眠中といっても全く費用がかからないというわけではありません。

会社解散時の概要は下記のとおり

1.会社を解散し清算手続きを開始する
2.個人事業開始の手続きをとる
3.個人事業に会社の資産や権利を移転し名義変更
(建設業等の許認可手続等がある場合には新たに許認可を申請する必要があるので注意が必要です)
4.会社の清算手続きを完了させる

会社を解散・清算する場合

解散と清算結了の登記

会社を設立したときに法務局で「設立の登記」をしたように会社を消滅させるときにも「解散の登記」が必要です。

まずは、「解散の登記」を行ったうえで営業活動を停止し、会社の資産を換金し、負債がある場合は返済するという「清算作業」を行わなければなりません。

そして、財産が残った場合(いわゆる残余財産)は、それを株主に分配してはじめて「清算結了の登記」を行うことができ会社が消滅します。

「清算結了の登記」を行うことで、正式に会社が消滅することになりますので、この手続きが完了しないことには税務署や社会保険事務所等の役所から問い合わせがあります。なお、清算手続きが滞ったことにより年度を超えてしまったとしても、清算手続中の会社として税務申告は必要となりますので、早期に清算手続きを完了させましょう。

会社の清算と登記

会社は様々な権利や債権債務を抱えていますので、解散登記をしてもすぐに会社は消滅せずに、「清算手続中の会社」として存続します。清算手続き中の会社は、会社に残った個々の財産を清算する期間が必要となります。

「清算手続中の会社」は、通常の営業活動を行うことはできず、清算についての活動に限定されます。清算手続中の会社は「清算人」が管理運営します。「清算人」は営業活動をしていたときの代表取締役が就任することが多いです。

なお、「清算中の会社」では営業活動ができない為、解散した時点で事業にかかわるもの全てを個人へ移転させておく必要があります。

事業用資産の売却方法

個人成りの場合、会社から個人(会社の役員)へ全ての事業用資産を売却する必要があります。備品・機械・車両等の固定資産を通常の時価で会社から個人へと売却し代金相当額を会社に支払わなければなりません。

財産が残った場合

残余財産は、会社のオーナーである株主に分配し、残余財産が資本金を上回る場合は法人税等が課されます。

税金の滞納や借入れがある場合

税金や社会保険料等については、税務署や社会保険事務所・労働基準監督署等、借入金については金融機関に相談する必要があります。

負債の返済が不可能な場合は法的手続(破産、民事再生など)に移行する可能性が高いですが、弁護士費用等がかかることについても留意する必要があります。

会社を休眠させる場合

費用を抑えたい場合や会社として復帰する可能性がある場合に選択される方が多いです。休眠とはいえ、会社は残りますので会社関連の手続をとる必要があることに注意が必要です。

休眠とは、会社を法的には存在させておきながら(登記簿上は残しておきながら)会社としての活動を一切停止させることです。休眠中は一切の活動を行うことができません。預金の変動や看板が掲げたりしている場合は休眠とはみなされません。

休眠の手続は税務署・都道府県税事務所・市役所に「異動届(休眠届)」を提出し手続は終了となります。

休眠中の手続

休眠中も形式的な税務申告と役員変更登記(株式会社の場合)は必要となり、税務申告がない場合は青色申告が取り消されます。

また、都道府県と市町村によっては休眠中であっても均等割税額の納付が必要となる場合があります。

株式会社は役員の任期が完了すれば(最長10年)必ず役員変更登記が必要となります。

最後の登記から10年が経過しても役員変更登記がない場合には、解散したとみなされて しまいます(みなし解散)。

ただし、一定の期間内に所定の手続をすれば解散は免れます。

※休眠中の会社の所在地
登記上の所在地で営業をしている会社がそこを引き払い休眠する場合、郵便物の転送は一定期間で終了しますので、休眠と同時に所在地を代表者の自宅など郵便物が確実に届く場所に移転することが望ましいです(要登記)。

税金の滞納がある場合

休眠届けを提出しても滞納している税金の納税義務は消滅せず、税金の滞納がある限り休眠とすることはできません。

会社を休眠させ個人事業者としての事業開始時の留意点

①会社の名前を消滅させて個人事業者の名称 (屋号)のつける

会社の名称と同じで差支えないですが、「株式会社」「有限会社」といった法人格はつけれません。

②会社で営業していた頃の売上代金の扱い

会社の預金口座へ振り込んでもらう必要があります。

③会社の復活

いつでも復活できます。役員変更登記を怠っていてみなし解散とされた場合には、復活できないことがあります。

会社と個人での記帳の違い

原則、複式簿記の制度ですので、同じです。

その他

税理士に法人成りさせられた

個人より会社の方が事務の工程が煩雑になりますので会計事務所の報酬は高くなります。また、会社の事業年度は自由に決めることが でき、個人事業者のように確定申告の時期に業務が集中しないという都合はあります。

会社よりも個人事業が良いところ

登記・社会保険・事業主だけで給与の支払いのない事業等でしたら源泉徴収や労働保険も不要となり、事務量が少なくなります。また、法人にくらべ税務調査が少なくなる可能性があります。

株式会社や有限会社はいわゆる有限責任ですので、出資した範囲内で責任を負えばよいのですが、実際には、金融機関から融資を受ける場合、代表者の個人保証を要求されるのが多いのでメリットとなる場合があるとします。

会社で事業運営する方がよい場合

会社として事業を運営する場合、事業主の取り分を給与とし、ここからさらに給与所得控除を差引いた「給与所得」が課税対象になります。

一方、個人事業主として事業を運営する場合、事業主の取り分がそのまま「事業所得」となり、当該金額が課税対象となります。