メールのミスを防ぐ

まず最初は、30代・女性所員の方がお話くださいましたメール送信に関するミス防止策についてです。

「メールは大変便利なツールですが、手軽に使える分、ミスを起こしやすいツールと言えます。メール文の誤字・脱字や添付ファイルの付け忘れぐらいのことなら、先方も笑って許してくださいますが、メールの送信先を間違えたり、添付ファイルを付け間違えて他社の資料などを送信したりしてしまうと、それは情報漏洩という重大事故になってしまいます。思うに、ファイル添付のミスは、メール文の作成に意識が寄り過ぎ、文面ができあがると何となく一作業終えたような気持ちになることに起因しているような気がします。私の場合は、メール文を作成する前に、まず、お送りするファイルの添付を先に行います。

もちろん、その際は、添付ファイルを一旦開いて内容をしっかり確認します。次に、メール本文に先様の名前と添付ファイルの名前を入力します。それからメール本文の作成に取り掛かります。そして最後に、先様の名前、添付ファイルの名前、送信先の一致を確認し、送信します。メール作成のプロセスを入れ替えているだけですが、こうすることで送付先の間違いや添付ファイルの付け忘れ、付け間違いを防いでいます」とのこと。業務の工程を少し変えるだけでミスの発生を防止している事例でした。
人の行動にはミスが付きまといます。しかし、顧問先の決算・申告業務などを担う会計事務所の仕事には、ミスは許されません。ミスは些細なことから引き起こされると言われますが、皆さんは、業務を遂行していくうえ上で、どのようにミスの防止に努めているのでしょうか。今回は、職員の皆さんが実際に行っているミス防止策について、ご紹介いたします。

顧問先特有の” 事情” をしっかり引き継ぎ

続いては、20代・男性所員による担当変更に伴う引継ぎに関するお話です。

「私の事務所では、担当変更に際して、お客様特有の事情を細かく記した申し送り書を使って、引継ぎを綿密に行うようにしています。お客様には、それぞれ固有の事情があります。それは金融機関からの融資に関わることだったり、主たる得意先との関係のことだったり内容は様々ですがそうしたことをしっかり把握しておかないと、通り一遍の対応しかできません。決算処理一つを取っても、お客間特有の事情を踏まえているかどうかで、内容も微妙に変わってきます。

担当変更によって、お客様にご迷惑が掛かることがないよう、引継ぎには細心の注意を払っています」とのこと。確かに顧問先の方は、言わずもがなで自社の事情に精通していることを求めます。詳細な申し送りがミスの目を摘むことになるのでしょう。

一目瞭然、マーカーのカラーを統一

次は、文具の使い方の工夫によるミス防止のお話です。20代・女性所員の方がお話くださいました。

「どこの事務所でも、顧問先に提出する書類は担当者が作成した後、上長・所長が内容を確認するダブル・トリプルチェックの体制を敷いていると思いますが、申告処理などでは確認項目も多岐にわたります。カラーマーカーで確認漏れなどをチェックしている方は多いと思いますが、私の事務所では、マーカーを使用する際、消費税の課税区分別や交際費とそれ以外の科目別など、事務所でカラーを統一することで、数字の突き合せなどを見やすくわかりやすくし、チェック漏れなどのミスの防止に努めています」とのこと。チェック項目がカラーで統一されていれば、突き合せもやりやすいことでしょう。文具の使い方に一工夫加えたアイデアでした。

”デジタルデトックス”で集中力を回復

続いては、ミスを防ぐために生活習慣から見直したというお話です。30代・男性所員の方がお話くださいました。

「仕事において、ミスには至らなかったのですが.ヒヤリとすることが続き、「集中力がかけているのかな?」と思う時がありました。

このままではいつか大きなミスに繋がると思い、自分なりに集中力を欠く要因を探ってみました。そこで気がついたのが、生活習慣の問題です。私の場合、朝起きてスマートフォンでSNSを確認することから一日が始まり、出勤途中、休憩時間中、仕事での移動中、帰宅後と四六時中、インターネットに浸かっている状況が見て取れました。

仕事に役立つことがあればと思って始めたものの、いつの間にかその癒労が仕事に悪影響を及ぼしていることがわかりました。これでは本末転倒と思い、日常生活におけるインターネットとの関わり方を改めて見直しました。そして、本当に必要なものだけを残し、他は切り捨ててみました。このような“デジタルデトックス” に取り組むことで、バタバタと雑多な情報を追いかけていた慌しさがなくなり、毎日落ち着いて仕事に入れるようになりました。

今思うと、インターネットによって社会と繋がっていないといけないという、強迫観念に近い感覚が仕事の妨げになっていたと思います。現代において、インターネットはなくてはならないものですが、それに浸かり過ぎると思わぬ所に弊害が出ることが、あります。

時々、そういった生活習慣を見直すことが大事だと思いました」とのこと。便利なインターネットですが、仕事や生活に役立ててこそ価値のあるもの。現代人の陥りやすい落とし穴かもしれません。

事務所独自の チェックリスト を作成

続いて40代・男性職員の方がお話くださったのが、個人のミスをカバーする事務所としての取り組みについてです。

「税理土損害賠償責任保険、いわゆる“税賠” の事故件数を調べてみると、毎年200件前後の事故が起きています。この数字は万全な体制を整えているつもりの事務所でも、事故が起きる可能性があることを示していると思います。私たちの業界は信用が第一であり、ミスが表に出てはなりません。

仕事の精度をどれだけ高めることができるかが、事務所の発展にもかかっていると思います。そこで、私の事務所では、事務所独自に業務のチェックリストを設け、対策を講じています。主なチェックリス卜をあげると、法人税や相続税の申告に関するもの、消費税処理に関する選択項目についてのものなどがあります。それぞれのリストは、法人税処理であれば「事前に前期の申告書を確認し、今期の申告に影響を及ぼす項目を確認したか」、消費税処理であれば「各種届出書の提出状況を確認したか」など、確認漏れや勘違いによるミスをカバーする内容となっており、各チェックリストは担当者自身で確認した上で、その上長が再度確認をする仕組みとなっています。チェックリストの効果だけではありませんが、幸い、私の事務所では損害賠償に繋がるような事故は起きておりません。今後は、マイナンバーの本格導入によって、情報管理にはより一層注意が必要になります。事務所として、現在の体制に満足するのではなく、さらに改良させて行かなければならないと思案中です」とのこと。個人としてのミス防止策に加え、組織としての防止策があれば、ミスの発生は大きく低減されます。

ミスを防止する独自のチェックリスト、大変興味深いですね。

アラー卜機能で、先念を防止

次は、作業の失念防止に関するお話です。30代・男性所員の方がご紹介くださいました。

「私の事務所では、給与計算の請負い件数がかなりあります。作業としてはそう難しいものではありませんが、ついうっかりしてしまうのが作業に着手するタイミングです。給与計算の締め日や支給日はどの顧問先も固定されているので、逆算して「毎月○○日に着手すれば」ということはきちんと頭にあるのですが、月によってはカレンダーの土日や祝日の並びにより、支給日が数日繰り上がることがあります。それにふと気づいて慌てて出勤簿などを取り寄せ、大急ぎで関係書類を作成したことがあります。その時は、毎月の○○ 日に着手という意識が、逆に落とし穴になりました。以来、期日になると画面に『給与計算に着手!』というアラート(警告)が出るようにし、失念防止に努めていますとのこと。慣れた定例業務は、仕事の優先順位やペースも固定化されがちですが、そこに落とし穴があるというお話でした。

適度なゆとりがミスを防ぐ

最後は、急がば回れ的なお話。40代・女性所員の方がお話くださいました。

「人間の集中力が続くのは、長くて90分と言われています。緊張感を保とうとしても1日中仕事をしていると、どこかで集中力が欠け、効率も落ち、ミスへと繋がります。ミスを起こさないためには適度な休憩も必要。私の事務所では、各自が意識的に休想を取るように努めている上、繁忙期などは所長自身が甘いものなどを用意し、私たち所員のリフレッシュに気を遣ってくれます。そして、一息入れて集中力を高め直し、改めて業務に向かいます。車のハンドルの“遊び’ と一緒で、少しゆとりがあるのが、ミスを防ぐことになると思います。とのこと。どんなに仕事ができる人でも、集中力の持続には限界があるもの。忙しい中にもゆとりがあることで、ミスを防げるというお話でした。
ミスは個人が起こすものとは言え、個人としての対応には自ずと限界があります。個人のミスを事務所としてどう防止するか、やはり最後は組織としての対応力が問われると言えるでしょう。