会計事務所職員の意議や勤務事情のクローズアップ

顧問先の中には、時折、独特な経営手法で事業を発展させている経営者が存在します。一見ユニークに見える行動や言動なども、卓抜した先見の明によるものだったり、他者には思いつかない発想に基づくものだったりすることがあります。今回は、ユニークな経営を実践する経営者に接することで、学んだこと、影響を受けたことについて、ご紹介いたします。

良さがわからないものにこそ、ヒン卜がある

社長室にずらりと並ぶ、子供用のおもちゃの数々。その会社は玩具メーカーというわけではなく、10代後半の若者向けファッションを手掛けるアパレルメーカーだそうです。

担当する30代の男性所員の方は語ります。「最初は社長の趣味なのかな、と思いました。社長室にプラモデルや怪獣のフィギュアを置く経営者の方は珍しくありませんから。

しかし、話題を振ってみると、社長がおもちゃの一つを手に取り何が面白いのか、本当に分からないと言い出し、その言葉にびっくりしました。よくよく話を聞いてみると、おもちゃの収集は社長のユニークな経営哲学に基づくものでした。いわく、『このおもちゃで遊んでいる人が10年後に我が社の顧客になる。

幼少時代に触れたものはその後の好みにも影響する』として、長期的なマーケティングとしておもちゃをリサーチしているとのこと。

さらに、『新しいものは最初は理解できないけど、そこから世の中を変えるようなものが出てくる。“分からない” と放っておくと、10年後や20年後に取り残されてしまう』という思いから、新しいものの何が“分からない” のかを突き詰めて考えることを実践されているそうです。

杜長の分からないことをそのままにしないという考え方に影響を受け、私も“ 分からないポイン卜” をメモにしておくようにしたところ、別の機会に「あっ、あれはこういうことかもしれない」と気付くことができたんです。何が分からないかを考えないまま放置していたら、気付くことなく仕事をしていたでしょうね。社長に感謝しています」とのこと。

そして最後に、「それでも、おもちゃ集めは半分趣味だと思いますけどね」と笑顔で、語ってくださいました。

勤務時間も仕事も自分で決める

ある会計事務所の40代の女性所員方は、顧問先の社長の話を聞いて本当に驚いたそうです。

「最初にお伺いした時に、社長から『うちには部署がありません』と言われました。お話を聞いてみると、業務を指揮するリーダーはいても、管理部門や技術部門といった部署の概念がなく、社員の皆さんが社内を自由に行きかって仕事をしているとのことでした。

その会社は従業員40人程のIT関連の企業で、勤務時間も社員が自由に決めて構わないという方式を採っています。

部署や勤務時間を定めないと却って不都合なことが起こるのではという疑問に対して、社長は『みんな立派な大人で自由に裁量を与えられているのに、どうしてそんなものを設けるのですか?』と仰いました。

この独特の業務スタイルの根幹にあるのは、「ほとんどの企業がベストだと思っている仕事のやり方は、実はおまじないのようなもの」というユニークな経営理念です。

私もこれまで当たり前と思っていた多くの会社はいかにモチベーションを持たせるかに腐心しますが、この社長はI仕事なんてやりたくなくて当たり前』という現実的な考え方に基づき、そこから考えを発展させて「ならば、自分のやりたい仕事を自分で決めるようにすればいい」という経営哲学を持つに至ったそうです。

部署に関係なく、生じた仕事を誰かが持っていっては片付けるという流れができた結果、社員全員が仕事にやりがいを感じ、企業が陥りがちなセクショナリズムとも無縁のようです。

他の企業のやり方の全部が『おまじないとは思いませんが、社長の考えに触れ私もこれまで当たり前と思っていたことが果たして本当にベストの選択なのだろうかと改めて考えるようになりました』と語ってくださいました。

良い行いは人の見ている前でする

別の事務所の40代の男性所員の方が担当する会社では、杜訓として「善行は人の見ているところでせよ」という言葉が掲げられているそうです。

どういうことなのでしょうか。「この会社の社長は、『どんなに良い行いや良い仕事をしても、他人に評価されなければ意味がない』と仰います。

無意味と言うと語弊がありますが、やったことを評価されなければもったいないし、自己満足で終わってしまっては己のためにもならない、という戒めの意味もあるようで す。

確かに、自分の行いを他人に評価してもらうことで、本当に意義のあることだったのか、逆に不必要なことだったのか、気付くこともあるかもしれません。

我が身を振り返ると、若い頃やたら残業をやっていた時期がありました。

今思えば“人知れず頑張っている自分” に酔っていたように思います。

社長の「善行は人の見ているところで」という言葉は、頑張るならその頑張りが、間違った方向に向かないように、というアドバイスだと受け取っています」とお話しくださいました。

派手なス-ツ・・・ 本当の意図とは?

経営者の中には、派手なスーツに身を包むなど、一風変わったファッションをトレードマークとする方がいらっしゃいますが、そのいでたちには単なる派手好みではなく、奥深い意図が隠されているケースもあるようです。

50代の女性所員の方が担当するある顧問先の経営者の方は、いつも極彩色のネクタイや眼鏡を好んで愛用しているそうです。

「初対面の時は、そのいでたちに触れるべきか迷ったあげく何も言いませんでしたが、親しくなった後に、『相手を見極めるために敢えて変わった格好をしている』ということを教えていただきました。中小企業では付き合う取引先などを慎重に選ぱなければなりません。

派手なファッションは、見た目に対してどう反応するか、あるいは見た目によって対応を変えるような人物なのかをしっかり観察するための手段だったのです。

社長からは、『あなたは合格だったよ』と言われましたが、背筋がヒヤリとしたのを賞えています。

経営者の方は色々なところを見ているんだなと、改めて認識しました」と話してくださいました。

他者とは違う着眼点やビジネスモデル、会社の運営方法など、一見ユニークに見える発想・行動には、合理的な理由や目的が潜んでいるようです。

そうした経営者の仕事術や考え方を知ることができるのも、会計事務所に勤める役得の一つと言えるでしょう。