会計事務所職員の意議や勤務事情をクローズアップ!

会計事務所に期待される役割は記帳代行や決算・申告処理にとどまりません。顧問先を訪問する際には、財務状況を読み解き、今後の経営に役立つアドバイスを提示する、いわゆる「経営指導」が求められます。との経営指導では、顧問先に応じた個別の対応が必要になります。今回は、訪問時の経営指導に関する各事務所の工夫について、ご紹介いたします。

財務スキルを高める

最初にご紹介するのは、顧問先訪問の際にお客様の会社の財務諸表だけでなく、他社の財務諸表も持参するというお話です。どういう取り組みなのでしょうか、50代・男性所員の方がご説明くださいました。「訪問の際には、公開されている大企業などの財務諸表を毎回持参し、そこからその企業の問題点や成長の原動力をお客様に読み解いていただくという取り組みをしています。サンプルとして使うのは、近年急成長している会社や倒産した会社、粉飾が発覚した会社など、その時々の話題となっている大企業の財務諸表です。

取り組み当初はポイントをこちらからご説明していましたが、お客様の財務スキル向上に伴い、現在の形にしました。もちろん、お客さまによってスキルはまちまちですので、お客様に応じて問題点を見つけやすいように、財務グラフであれば背景色のカラーリングを工夫して、折れ線グラフが“危険領域” を表す赤い色のゾーンに突入していれば、経営危機に直面しているということに気づいていただけるようにしています。また、人件費コストに対する生産効率に問題がある時は、平均給与などのデータを強調して提示します。こちらが先に説明せずに、ヒントを提示して財務諸表を読み解いていただく手法ですね。この取り組みで・養った力は、当然お客様が自社の財務データを見る上で役立ちます。財務への理解度が増した結果、皆さん自社の数字の変化にとても敏感になられました」と語ってくださいました。

尚、この公開されている大企業の財務帳表を顧問先のスキル向上に役立てるという方法は、他の事務所でも同様の例がありました。ある事務所にお勤めの40代・男性所員の方によると、「私の事務所では、お客様と同業種の上場企業の財務データをお持ちして、その業種、その業態特有の財務的な特徴をお伝えします。そして、売上に対する利益の割合や流動比率などを認識してもらい、自社の発展のために目指すべき数値を理解していただいています」とのことです。同業他社の経営状況は、やはり気になるもの。その関心を財務スキルの向上に結び付けているという取り組みでした。

事業継続計画(BCP)

自然災害などによって被害を受け緊急事態となった時に備え、事業資産の損害を最小限にとどめ、中核事業を継続・早期復旧させるためにつくる計画表のことです。このB C Pが、結果的に財務状況に対する理解度アップにつながっているという事例を、40代・男性所員の方が紹介くださいました。

「私の事務所では、顧問先企業ごとにBC Pをつくり、定期的に更新する取り組みをしています。計画の策定にあたっては、手元資金や定期的に入ってくるキャッシュ、材料調達のコストなど、自社の財務状況を詳細に精査する必要があります。そのため、会社の財務上の強みや弱点が浮き彫りになります。現時点での会社運営に問題はないが、このままの状態だと大きな災害に被災した時に、会社の建て直しが難しくなるといった現実などがはっきりと見えてきます。そのリスクを排除するためにはどうしたらよいか、どの数字を改善する必要があるか、といったことをお客様自身で考えるようになり、結果的に、自社の財務状況に対する理解度を高めることにつながっています」とのことです。万一の時のための備えなどは、得てして普段はしまいこんだままにしてしまいがちです。会社存亡の危機への備えを、財務状況理解のツールとして日常的に活用することで、より深く会社の状況への理解が進むのでしょう。「備え」と「理解」か高まる一挙両得のアイデアと言えそうです。

コストカットの実現へ実現不可能な数字を使って理解を向上

続いては、販管費や売上原価の低減に向け、極端な数値を用いて理解度を高めたという事例です。50代・男性所員の方がご紹介くださいました。

「顧問先経営者の中には、『販管費や原価の多くは固定化されていて、多少手を打ってもさしたる効果は得られない』と捉えている方がいらっしゃいます。

そのような方の重い腰を上げさせるには、極端な数字を見せるのもひとつの手段です。例えば、機械製造業の会社であれば、割高になる機械部品の少数注文の現状を改めるために、ネジを10年分まとめて仕入れた場合のコストカット効果を提示しますもちろん、製品の組み立てに使用するネジを10年分まとめて注文するというのは、現実的な話ではありません。1年分の数量ですら、一括発注するのは余剰在庫となるリスクがあります。当然、『実現不可能な話』となりますが、実はそこが出発点で、その改善策がなぜ実現不可能なのかということを一緒に考えていただくのです。敢えて実現不可能なプランを提示し、どうプランをアレンジすれば実現できるか検討していくことで、10年分はおろか、1年分さえ一括発注は難しい。でも、半年分、3か月分くらいなら生産計画をしっかり精査すれば、余剰在庫とならない適正量が弾き出せるかもしれない。ロット単位を上げれば価格交渉が図れるかもしれない、といったことをお客様が考える余地ができます。

非現実的な数字を提示する時は、『業界事情を知らない人間』と思われないようにも気を付けます。その上で、『この業界には、こういう事情があるんだよ』という話などを聞き出しながら、『それでは、こうしたらどうでしょう』といったキャッチボールを重ねていきます。こうした対応を続けた結果、訪問の度に、コストカットの検討に真剣に取り組んでいただけるようになりました」とのことです。

不可能な話から、実現の可能性を探る。逆転の発想による経営指導の実例でした。

お客様の関心度がアップ

最後の事例は、「月次訪問時にはノートパソコンやタブレット端末が手放せなくなった」と語る50代・男性所員の方のお話です。

「モバイル端末を活用する利点、はたくさんありますが、私が感じる大きなポイントは、紙の資料だけで説明していた時と比べ、お客様が一層会計事務所の話に興味を持ってくれるようになったことです。例えば、税制改正の内容などの情報をお客様にご説明する時、モバイル端末の拡大表示機能やインターネットへのリンク機能などを使えば、紙の資料にはない“動き” が出るので、お客様の認識に残りやすいようです。これは財務状況の説明でも同様で、貸借対照表や損益計算書上の注視すべき数字をクローズアップ(拡大表示)すると理解度は格段に高まるようです。これまで状況を説明しでも、今一つ問題を具体的にイメージできなかった方までが、真剣に話を聞いてくれるようになりました。また、紙の資料だけでは、予め用意したものしか形に示すことができませんが、モバイルツールを使うと、お客様とのやり取りで出てきた目標値や予想値を織り込んで状況の変化を提示することもできます。財務スキルが.高いお客さまなどは、特にそうしたシミュレーションについて『勉強になるね』とおっしゃってくださいます」とのこと。この方の事務所では、顧問先訪問するスタッフ全員にモバイル端末が支給されているそうです。

これからは、モバイル端末が会計事務所スタッフの七つ道具に加わっていくこととなるのでしょう。