業界の事情

不動産管理業の事業所数は全国で約2万事業所程であり,増加傾向にある。さらに,従業者数は増加傾向となっている。

これは,少子高齢化の進行や,所得格差の拡大,ライフスタイルの多様化等,入居者の確保が困難になりつつあることから,オーナーが安定した経営の実現と専門的アドバイスを受けることを目的に不動産管理業者に業務を委託する場合が増加しているためと見られる。

また,貸ビル業務では,景気回復を背景に各企業の需要も徐々に高くなっており,東京や大阪では賃料が上昇傾向を見せていることが民間の調査で判明している。

立地条件が良ければ自然と需要につながる効果も期待できるが,実質的な供給過剰の状況は借手にとって物件選択の幅が広がっている。

したがって, 今後は老朽化の修繕やセキュリティ等,設備面の充実といった部分への投資を積極的に進めていく必要がある。

経営のポイン卜

不動産管理業の経営上のポイントとして,ニーズの掘り起こし,サービスの差別化,業務の効率化,人材の育成の4点が挙げられる。

(1) 顧客ニ-ズ

ライフスタイルの多様化等,入居者の確保が困難になりつつ中で,管理戸数の拡大のためには,顧客ニーズの掘り起しをすることが必要である。

具体的には,従業員に建物の専門知識やお金の知識を獲得させてオーナー営業を展開していくことが求められている。

また,入居者のニーズが高い新築物件を確保することや,老朽化した物件のリフォームの提案等も必要となっている。

(2) サービスの差別化

特徴あるサービスを提供することが他社との差別化につながる。

借手市場の中,24時間対応のコールセンターを整備することや,最近の傾向としてペット共生住宅等により,他社との差別化を図ることが求められている。

今後世帯数が減少することが見込まれている中,各社では,新たな顧客を獲得し,空室を減少させる取組みが必要となっている。

そのため,外国人の入居の斡旋,管理に特化することや高齢者に対応した物件の管理に絞り込むことで差別化を図ることもできる。

(3) 業務の効率化

社内でのIT 活用等により,効率的に業務また,入居者やオーナーからのクレームへの対応が重要であるため,迅速なクレーム対応や防止策の確立による業務の効率化も求められている。

新たな課題として,個人情報保護法への対応があり,物件や入居者に関する膨大な情報を適切に管理することが求められている。

(4) 人材の育成

不動産管理業界は,離職率が高く,人材の定着が業界の課題となっている。

人材育成への費用対効果が合わないといった問題があり,教育費用がかけられず,悪循環となっているが人材の育成は不可欠である。

特にニーズの掘り起し,オーナーへの提案ができる人材として,管理業務の質・効率の向上やオーナーの経営をサポートする企画・営業力の向上が求められている。

また,専門知識として,従業員には建物の知識,アセットマネジメント,プロパテイマネジメント,ファンド等の知識等も必要。

税務のポイント

(1) 同族会社による不動産管理

不動産の所有者が,自己や親族を役員にした不動産管理会社を設立して,その同族会社に管理料を支払い,また,役員である自己や親族に役員報酬を支払うことによって所得分散を図ることが行われており,問題となることがある。

これには, 以下の二つの形態がある。

① 管理委託方式

賃借人との契約は,不動産の所有者が行い,同族会社は,不動産の管理を行うことによって所有者から管理料を受け取る方法。

管理料が不当に高額でないかが問題となる。

② 転貸方式

同族会社が所有者から不動産を一括借上げし,それを賃借人に転貸する方法。

同族会社が不動産の所有者に支払う賃借料が不当に低くないかが問題となる。

いずれの場合も,主に,同族会社の行為計算の否認規定の問題とされており,取引の実態が経済的合理性に基づいているか,不当に納税額を減少させるものでないかが検討される。

事例としては, 管理料相当額として賃借人からの収入総額の15%程度が基準とされているようである。

また,②の転貸方式についても,判例で,管理委託方式と同様の算定でよいとしたものがある。

一方, 不服審判所の裁決では, 同族会社の行為計算の否認規定ではなく,所得税法37条の必要経費として認められないとされたものがある。

つまり提供した業務内容に相応した管理料がいくらかであるかが問題とされた。

不動産管理には,清掃,契約・更新,入金管理,水道光熱費の精算等の通常の維持管理等業務の他にも,空室保証(家賃保証)もあり,さらには,複数の不動産の効率的運用,資金調達手法の選択等の豊富な知識や経験を要する業務もある。

これらの業務をどこまで行うかによって,適切な不動産管理料は異なってくるものと考えられる。

(2)修繕費

修繕費の中に資本的支出が含まれていないか検討する必要がある。

見積書や契約書に基づいた現状確認を行っておく必要がある。

特に,大きな追加支出があった場合には,その内容には十分に注意する必要がある。

(3)人件費

人件費については,不動産の持ち主や家族が同族会社の役員となっている場合が多い。

この場合,人件費の金額がその人の業務内容と見合っているかが重要である。

業務内容に比し明らかに過大である場合は,損金として認められないことになる。

また,小規模な管理であるにもかかわらず従業員を雇っている場合,社長等に他に本業がありその仕事で忙しい場合等, その必要性についても検討が必要である。

(4)交際費

不動産管理業の場合,一般的には,交際費が必要になるケースは少ない。

テナントの冠婚葬祭,オープンに際しての祝儀,契約時・更新時の接待等に限られると考えられ,役員の個人的費用が含まれないよう注意が必要である