仕入税額控除の概要

消費税の原則課税制度の仕入税額控除について概要と簡易課税制度は仕入税額控除の計算の特例について検討します。

消費税法30条1項は、免税事業者を除く事業者が、国内において行う課税仕入れ又は保税地域から課税貨物を引き取った日の属する課税期間における課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る支払対価の額に108分の6.3を乗じて算出した消費税額(108分の1.7は地方消費税)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く課税貨物につき課された又は課されるべき附帯税の額に相当する額を除く消費税額の合計額を控除すると定めています。

これを整理すると、課税期間の課税売上高に対する消費税額から課税期間の課税仕入高に係る消費税額を控除したものが納付すべき消費税額ということになります。

ここで言う「課税仕入れ」とは、消費税法2条1項12号において「事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けることをいう。」と定められている。よって、課税事業者からの仕入れはもちろんのこと、免税事業者や消費者からの仕入れであっても、課税仕入れの範囲に入ることになります。

仕入税額控除の要件については、消費税法30条7項及び同法施行令50条1項において、免税事業者を除く事業者は、課税仕入れ等に係る消費税額を控除するためには、一部の例外を除き、課税仕入れ等の事実を記載した帳簿及び請求書等の書類を7年間保存することと定められており、帳簿保存方式が採用されています。

仕入控除税額の計算方法については、課税売上割合が95%以上の事業者は、課税仕入れ等の全額が仕入れ控除の対象とできるが、課税売上割合が95%未満の事業者については、下記の方法で計算することとされている。

本則課税の個別対応方式

(課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ等の税額+課税資産の譲渡等と非課税試算の譲渡等に共通して要する課税仕入れ等の税額)×課税売上割合

本則課税の一括比例配分方式

該当課税期間中の課税仕入れ等の税額×課税売上割合

この計算の事務負担等を考慮して導入されたのが簡易課税制度です。簡易課税制度の適用を受けた場合には、下記のような簡易な計算によって仕入控除税額を算出することが可能となります。

簡易課税制度の仕入税額控除の算定式

課税標準額に対する消費税額×みなし仕入率

このように本則課税と簡易課税制度においての仕入控除税額の算出手順の複雑さには大きな差異がある。ただ、前述の通り事務処理能力のある中小事業者の多くが損得を計算した上で制度適用を選択している実態が認められるとの問題も指摘されている。

帳簿保存方式とインボイス方式

我が国の消費税制度においては、税の累積を排除するために、仕入税額控除制度が設けられており、その具体的な累積排除の方法として、消費税導入の際には、取引慣行や納税者の事務負担に配慮するという観点から、課税仕入れ等の内容、取引価額等を記録した帳簿又は課税仕入れ等の内容、取引価額等が記載された請求書等又は税関長が交付した書類をもとに仕入税額控除を行う(帳簿保存方式)とされていた(法30条)。しかし、この方式に対しては、納税者自身が記帳する帳簿のみによって仕入税額控除を行うことが可能だということについて、制度の信頼性の面から疑問が呈されていたことなどを踏まえて、平成6年の税制改革において、課税仕入れ等の事実を記載した帳簿の保存に加え、請求書等の取引の事実を証する書類の保存をも仕入税額控除の要件とする「請求書等保存方式」を採用することとして、平成9年4月1日以後の課税仕入れ等について適用されています。

これに対して、免税事業者からの仕入れの際の益税問題の解消や、将来的な消費税率引上げの際の「所得に対する逆進性」緩和を目的として複数税率を導入するために、「インボイス方式」を導入すべきだという意見がある。「インボイス」とは、適用税率や税額など法定されている記載事項が記載された書類である。インボイスに記載された税額によって仕入控除を行うのが「インボイス方式」であり、EU諸国の付加価値税において採用されています。

政府税制調査会も、「複数の税率が存在する場合には・・税額が記載されていない請求書等によって適正に仕入税額控除の計算を行うことは困難であることから、基本的には、税額記載の請求書等(インボイス)の保存を仕入税額控除の要件とすることが必要である(平成12年7月14日答申)」としています。

更に「複数税率が採用される場合には、適正かつ円滑な施行に資する観点から、免税事業者からの仕入税額控除を排除し、税額を明記した請求書等の保存を求める『インボイス方式』を採用する必要がある(平成15年6月17日答申)」として、複数税率を導入する際にはインボイス方式を採用すべきと明確に示しました。

確かに現行の請求書等保存方式では、複数税率に移行した際に仕入税額控除を正確に行うことは困難です。しかし、インボイス方式には、制度の信頼性・透明性に資する面がある一方で、事業者にとってはインボイスの発行及び保管、課税庁にとっては課税事業者の管理といった事務負担の増大や、免税事業者からの仕入れを控除することが出来なくなってしまうために、課税事業者が免税事業者からの仕入れを敬遠し、免税事業者が取引から排除されてしまうおそれといった問題点もあります。